COLUMN:日刊ゲンダイ「数字のホンネ」

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2008.01.29

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第46号 受験生のために積極的な情報公開を! 『大学・短大「経営困難」98法人』

 受験シーズンが本番を迎えている。受験生はもちろん、両親にとっても試練の季節である。

 そんな中、東京福祉大総長の女性教員に対する強制わいせつ事件が発覚した。総長の立場を利用した卑劣な犯罪だ。この数年、全国のキャンパス内での教員によるセクハラが続出しているが、トップまでもが手を染めていたのだから、言語道断である。

 大学の質の低下を如実に示す事件だが、実は大学をめぐっては、さらに大きな問題が指摘されている。経営危機である。日本私立学校振興・共済事業団の判定によると、全国の大学・短大あわせて98法人が「経営困難状態」にあり、うち15法人は「いつつぶれてもおかしくない」という報道があった。「経営困難」は全体の約15%にあたる。

 その背景には18歳人口の減少と大学の急増に伴う経営環境の悪化がある。15年前に200万人を上回っていた18歳人口は、07年度は130万人まで落ち込んだ。大学の供給過剰という状況の中で、赤字私大はいまや3割を超すという。

 早稲田、慶応を筆頭に一部の有名私大に志願者が殺到し、立志館大(広島)のような地方の無名私大は経営破綻に追い込まれた。これが現実だ。全入時代を迎えようとしているが、大学間の格差は確実に、急速に広がっている。

 問題は、危ない大学の情報が公開されていないことだ。誰だって「経営困難」と判定された大学・短大になど行きたくはないだろう。セクハラ事件や大麻不祥事などは学校名が報道されるから、志望校選びにあたって受験生にとっての判断材料になる。

 ところが、経営実態となると、ほとんどブラックボックスの中であるから、判断のしようがない。
「なんとか合格したはいいけど、その後で廃校なんてことになったら目も当てられないよ」
 ある受験生の父親が嘆いていたが、まったくその通り。

 私学経営には年間で3280億円(07年度)もの助成金が交付されているのだ。文部科学省や私学事業団も、もっと受験生サイドに立って、情報開示に努めるべきではないか。


2008年1月29日号



2008.01.22

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第45号 タスポ導入でどうなる? 『たばこ自販機56万台』

 喫煙者がどんどん追い込まれている。新幹線、タクシーなど禁煙エリアが日に日に拡大。愛煙家は肩身の狭い思いをしながら、煙モウモウの喫煙スペースで一服というありさまだ。

 そんな状況の中、今年、全国に導入されるたばこ自動販売機の成人識別カード「タスポ」をめぐる騒ぎが大きい。カードがないと自販機でたばこが買えなくなる。その一方でカードの普及が進まなければ、コンビニエンスストアなどの店頭販売のシェアが高まる可能性もある。そこで、たばこメーカーとコンビニを含めた販売店の思惑が錯綜しているのだ。

 たばこの自販機は全国に何と56万台。業界の調べでは自販機の購入シェアは66%。金額ベースで約51%を占める。もしもタスポが普及しなければ、この巨大な市場はコンビニと販売店に流れ込むことになる。童顔の大学生に「申し訳ありませんが高校生にはたばこを売れません」とか、「身分証明はありますか」など、こんな会話のやりとりで店員とトラブルが起きかねない。

 たばこメーカー各社も対応に追われている。マイルドセブンなどのパッケージ販売をする際、キャラクターものの付録を付けたり、コンビニなどの店内に専用棚を設置したり、基本的には自販機より店頭での販促に力を入れているようにみえる。

 昨年12月、タスポの申し込みが始まった宮崎、鹿児島では、カードの普及を図るべくPRイベントを開催。街頭で顔写真を無料撮影するなどの申し込み拡大に向け必死だった。

 タスポが東京をはじめ首都圏のビックマーケットで導入になるのは7月以降。マネーカードを使い慣れている若者やビジネスマンはすんなり使いこなしていくだろうが、高齢の愛煙家は戸惑うのではないか。

 ちなみに、私は愛煙家である。たばこ=不健康というシンプルな図式も分からないではないが、たばこ=文化であった昔を懐かしんだりもする。マナーも守っている。そうした喫煙者を排除するような風潮が高まることだけは避けてもらいと願っている。


2008年1月22日号


2008.01.08

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第44号 救急救命士が2万人を超えた! 『救急車出場件数対前年比5万件減の523万件』

 最近、街中を走る救急車の数が減ったように思われる。年間の救急車の出動件数は平成18年中で523万件。対前年比5万件も減少している。驚くべきことに、この数字は昭和38年に救急業務が法制化されて以降、初の減少となる。

 減少した原因と背景は、主に交通事故の件数が減少したこと、また救急車の適正利用の普及、さらに平成18年度はインフルエンザが大流行しなかったことなどが考えられる。

 救急車は約6秒に1回の割合で出場しており、なんと国民の約26人に1人が搬送されたことになる。現場到着まで約6分で、携帯電話や写メなどの普及により、救急車が事故現場へ到着するまでの時間がさらに早くなったと思われることを考えると、わが国の救急態勢の高度化が着実に進展しているといえよう。

 平成19年4月現在、救急隊数は4940隊と、5000隊に迫っている。救急隊員も着実に増加し、なかでも救急救命士の資格を有する消防隊員は初めて2万人を超えた。また、救急救命士のいる救急隊は全体の85%に及び、4200隊近くが救急救命士を擁している。したがって、応急処置の内容も一段と高度になり、この組織の充実のおかげで、年間交通事故死亡者数も激減したといえる。

 さらに数字を追いかけると、救急隊員数は5万9491人、救急救命士数は2万59人、一般的に救急隊員は3人で稼動することが多いが、そのうち1人は救急救命士である。器具によって気道を確保したり、薬剤投与が可能であったり、静脈路を確保したりと、医療特定行為によって命をとりとめた人もおそらく数千人になるであろう。

 各消防機関の実施する応急手当て普及講習の受講者数も年々増加し、平成18年中で150万人に迫っている。
つまり、救急車が到着する前に幸いに心臓マッサージ、人口呼吸などの応急手当てを受ける人も今後増えてくる。ここ3年でピークを迎える団塊の世代の退職者の社会参加意識が強ければ、日本全国の人命救助にかかわる大きなインフラとなってくるのではなかろうか。


2008年1月8日号


2007.12.18

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第43号 日本の電柱3300万本『ロンドン、パリは無電柱化率100%』

 イギリスの友人からいきなり「日本の空は汚いね」と言われた。
空間に張り巡らされている電線のせいである。

 そういえば、国土交通省が推進している無電柱化はどうなっているのであろうか。海外に目を向けるとロンドン、パリは無電柱化率100%、ベルリンは99.2%、ニューヨークは72%。一方、東京23区における無電柱化率は、なんと7.3%(05年)で、欧米の主要都市と比べて大きく立ち遅れている。日本全国の市街地平均は1.9%と、電柱と電線だらけなのである。

 日本全国にある電柱の本数は、電気事業便覧によると電力会社10社合計で、約2080万本(05年3月)。さらに電力会社の他にNTTも保有している。この数は04年度末の数字で、東日本が約570万本、西日本が618万本、おおまかであるが、全国の電柱の本数は約3300万本という数字である。つまり、日本人の人口に対して4人に1人が電柱を持っていることになる。

 電柱は、公共の場所に立ているとは限らない。個人の私有地に立っている電柱は1180万本。電柱の3本に1本は、個人の敷地に立っている。電力会社は、それぞれの個人には電柱敷地料という名目で1年間に電柱1本につき1500円、支線(電線)1本につき1500円、合計3000円を3年分まとめて9000円、振り込んでいる。
 
 国土交通省は1985年度から関係事業者と連携し、電線電柱の地下空間活用(電線共同溝の整備、無線電柱化)を促しているが、04年度末には約6200キロの地下敷設を実施してきた。

 子供の頃は電柱にのぼっておふくろに怒られたり、お正月ともなれば電線に凧がひっかかったり、散歩中の犬がオシッコをひっかけるなど、懐かしい思い出のある電柱だが、都市景観という美意識の議論をするならば、わが国は後進国と言われてもしかたない。

 交通や防災の面からも問題が指摘されている。街づくりビジョン全体の見直しが急がれる。


2007年12月18日号


2007.12.11

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第42号 30代の本離れ進む『1ヵ月本を読まない人52%』

 まったく嘆かわしい数字である。読売新聞社の、読書に関する全国世論調査の結果によると、なんと、1ヵ月のうちに本を読まなかった人の数が、前回調査に比べ3ポイント増え、52%となった(10月28日掲載)。2人に1人はまったく活字に触れずに生活しているというわけである。

 年代別では高齢者ほど本離れが進んでいる。70歳以上が66%、60歳代が55%、50歳代は51%。ショッキングなのは、30歳代が44%で、前回の調査と比較すると8ポイントも増えてしまったことである(40歳代45%、20歳代43%)。

 読書人口は国家の文化を支え、道徳を支え、教育を支え、福祉を支える重要な数字ある。それなのに、この結果はどういうことか。

 本を読まなかった理由(複数回答)は、情けないことに「時間がなかった」というのが49%で、対前年比4ポイントアップと最も多く、次いで「本を読まなくても困らない」20%、「読みたい本がなかった」19%などの順となっている。

 やはりここでも、パソコンと携帯電話の影響が出ているのではなかろうか。通勤電車の中で、携帯メールを打ち、帰宅してテレビを見、就寝前にパソコンを開いていたのでは、活字に触れる時間など、持てるはずもあるまい。

 ちなみに読みたい本の分野を3つまで挙げてもらったところ、「健康・医療・福祉等」が25%でトップとなった。
これは高齢化社会市場の影響もあることながら、あわせて自分の健康を懸念する人が日本全体に増えている結果であろう。

 活字離れを起こした国家の最大の悲劇は、活字によって培われる想像力を失うことである。つまり、目の前の事象にとらわれ、一歩二歩先の予測すらつかない国民が6000万人いるということは、ある種、文明の後退をも感じさせる。

 携帯電話の通話料やパソコンの通信コストに加え、外食費、しまいには医療費も家計に重くのしかかる今、真剣に活字文化への接近を促す対策を講じなければならない。公共の図書館の開館時間を長くするとか、各企業レベルで読書を勧めるとか、それぞれがもう少し活字のありがたさを見直して欲しいものだ。


2007年12月11日号


2007.12.04

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第41号 学校相手の“クレーマー”が急増『モンスター・ペアレンツ認知59.7%』

 モンスター・ペアレンツという言葉をご存知だろうか。
幼稚園や小学校、はたまた高校から大学まで、学校に対し激しくクレームや要求、場合によっては暴力沙汰を起こす父兄のことをいう。

 キャリア・マム(マーケティング、コンサルティンブグ会社)が実施した実態調査では、調査対象者の59.7%がモンスター・ペアレンツの存在を知っていた。
さらに強烈なのは、実に30%近くがモンスター・ペアレンツが周りにいると回答したことである。

 具体的なクレーム先は34.7%が担任の教師、次いで32.2%が校長もしくは園長、15.3%が保育士、5.1%が担任以外の教師、4.2%が教育委員会に直訴、というパターンである。その内容は多岐にわたる。
通勤に間に合わないから通園バスを早く寄越せ、あるいは運動会の競技の内容の変更、教室の雰囲気に対するクレーム、テストの出題に関するクレーム、ひどいものでは給食のメニューから校則の変更まで。

 これらのモンスター・ペアレンツの特徴は自分の家庭が世界の中心であると考えているところである。私の友人のある校長は、「年々そういう親が増えている」と嘆いていた。
つまり、家庭内での教育はほっぽり投げて、気に入らないことがあると担任や学校にとどまらず、教育委員会、文部科学省にまで突撃をする。まさにモンスターなのである。

 一方で、自分の子供のことを学校に任せないで、自分で教育する親も出現している。
「いじめ問題」などの決定的な対処の方法もないなか、親が学校に対する不信感を持つという現象は、わからないではない。しかし、核家族化して、先生と親との間にサンドイッチになってしまった2000万人以上の子供たちが、モンスター・ペアレンツ以外に頼るべきものをなくしてしまったこの国の将来が危ぶまれる。


2007年12月4日号


2007.11.27

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第40号 山村留学のススメ『参加の小中学生806人』

 ゴキブリとクワガタの区別がつかない。桜と梅の違いが分からない。海水は浮力があって体が浮くことを知らない。流れ星を見たことがない。

 挙句は、餃子を植物だと思っている、など主に大都市の小中学生の自然離れ現象は年々激しくなる一方だ。

 わが子を自然とともにたくましく育てたい、自立心を育てたい父兄にオススメなのが、山村留学である。2006年度の山村留学参加者の数は小中学生合わせて806人。
小学生552人、中学生284人だった。現在山村留学を受け入れているのは全国で27都道府県。小学校127校、中学校56校である。

 長野県のアルプスのふもと、旧八坂村は山村留学発祥の地である。今年で32年目になるこの制度は、財団法人「育てる会」が実施し、この村にある山村留学センターで子供たちは集団生活をしている。またある生徒は2〜6人に分かれて農家に泊まる。

 このセンターから5キロほど歩くと留学先の八坂中学校に着く。そこは全校生徒42人の中学校。4分の1程度は山村留学生が占めている。部活動は吹奏楽とバドミントンの2つだけ。ほとんど地元中学校生と区別のない生活を送る。山村留学の基本は1年間だが、翌年も継続するケースが圧倒的に多い。受験期になると親元に帰り受験勉強に集中するパターンだ。

 ちなみにこの山村留学の費用は月々8万円。一見、高いようだが、子供たちが商業化された街に無防備に放出され、ゲームやファッションや添加物だらけのファーストフードにお小遣いを支出することを考えれば、はるかに経済効果があるのではなかろうか。

 私のビジネスパートナーの、キョードー東京の嵐田会長のご子息は、この山村留学で鋼のような精神と肉体を備えた子供に育てられた。

 通勤電車で疲れ、携帯電話で耳鳴りを起こし、上司と部下の間でサンドイッチのようになってしまっているあなたも、少しでもエネルギーが残っているうちに、ホンの3週間、休みをとって大人の「山村留学」を実行してみてはいかがだろう。


2007年11月27日号


2007.11.20

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第39号 2年連続減少「焼酎ブーム」の行方 『焼酎市場3326億円』

 帝国データバンクによると、2006年の焼酎メーカー上位50社の売上高合計は、3325億7800万円となり、対前年比1.4%減となった。2年連続で前年割れである。上位50社のうち、九州・沖縄地区の企業は前年と同じく43社。このうち増収企業は前年の35社から9社減って26社となった。

 売上高トップは、麦焼酎「いいちこ」を擁する三和酒類、2位は「博多の華」「鍛高譚」を擁するオエノングループ、3位は「白波」を擁する薩摩酒造だった。

 最近の焼酎市場を引っ張っているのは、芋、麦、そば。県別のメーカー数を見ても分かる。1位が芋焼酎を主力とする鹿児島県勢。2位は麦焼酎を主力とする大分県勢、3位は芋・そば焼酎主力の宮崎県勢という順番になっているのだ。

 ご存知の通り、04年にピークを迎えた焼酎ブームは、2年連続で前年実績を割ったものの、03年以降、いまだに清酒の出荷量を上回り、消費者に定着したことは間違いない。当時は健康ブームをベースに焼酎ブームをつくったが、マーケットが急激に拡大したこともあり、原料の芋不足のため出荷量を制限した。昨今では、耕作面積の拡大などで芋不足については解消されたもよう。

 一方で、原材料価格の上昇と海洋投棄禁止による搾りかすの処理費用の増加で、値上げの動きも出てきている。価格に敏感な消費者の今後の動向が注目されるところだ。

 それだけに、今後は首都圏や関西圏、東北地方、北海道エリアへのマーケテイング戦略が安定成長のカギになる。加えて、韓国、中国、ベトナムなどへのアジアマーケットへの目を向ける必要も出てくるだろう。

 鹿児島出身の私が利用する鹿児島空港のみやげ物売り場には焼酎がズラリと並ぶ。そのラベルがこの3年間で4倍にも5倍にもなっているように思える。マーケットが一気に拡大して経営者が傲慢になると、ブランド戦略を怠って商品構成が複雑になり過ぎるケースがある。身を引き締めて、むしろ主力商品を強化することが今後の安定成長のカギとなるはずだ。


2007年11月20日号


2007.11.13

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第38号 中国文化の浸透 『中国語教育市場37億5000万円』

 2008年の北京オリンピック開催を控え、日本国内で中国語学習ブームが再燃している。日本の語学教育の市場規模は、2006年度に対前年比5億円マイナスの8126億円。このうち、なんと99%以上が英語。市場の2位は中国語の37億5000万円だった。全体の市場規模が微減の中で、中国語のみ増加。おそらく2010年には、50億円を突破するだろう。

 授業に中国語を取り入れた私立校や幼稚園も増えている。さいたま市の淑徳与野中学校は、3年前の開校時から課外授業の一環として中国語を必須科目に指定した。

 高知県の明徳義塾中学校・高等学校は、小学生を対象に外国語暗唱大会を行ったが、その中で10人以上の小学生が中国語の課題で応募した。高知市内には中国語を授業に取り入れている公立の小中学校があり、日本の中では最もすすんで中国語を取り入れているといえよう。

 一時、アメリカ・コンプレックスからか、子弟をアメリカンスクールに入れバイリンガルに育て、ひいてはアメリカの大学に進学させるという風潮があった。最近は、中華学校に入学を希望する日本人が増えている。東京・千代田区にある東京中華学校にも、日本人の入学希望者が集まり大人気。小学校から高校まで全体280人のうち、なんと約3分の2が日本国籍である。

 言語習得は、ただ単にランゲージ・バリアを取り除くだけでなく、言葉に合わせて文化や習慣も身に付く点で重要である。健全な形の国際化は社会に広がりをもたらす。その意味では、若者層への中国文化の浸透は結構なこと。

 ただ、その一方で日本文化を積極的に広める努力も必要だろう。日本の教育機関は、学費だけでなく生活費等も面倒をみて、日本語を学ぶ各国の学生を積極的に招いたらどうか。


2007年11月13日号


2007.11.06

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第37号 音楽業界にも格差社会 『1年間の新人歌手数324人』

 カラオケの普及で、国民全体が歌手といってもいいような時代だ。しかも持ち歌が多く、100曲、200曲を歌いこなすアマチュアシンガーは、ざらであろう。

 2006年度の新人歌手のデビュー数は、再デビューの56人も含めて324人だった。歌手を採用する音楽ディレクターの採用基準やレコード会社の採用教育費や新人歌手に投資するコストなどもあり、年ごとにバラつきはあるものの、この3年間、ほぼ300人前後で推移している。

 一方で、レコード店舗の販売の売り上げは低迷。TSUTAYAやHMV、タワーレコードなど、上位10社のチェーン店の売上高合計は前年度比6.8%減となっている。

 ところが、インターネット経由で携帯電話や携帯デジタルプレーヤーなど、モバイル、PCに配信された音楽の売上高は534億円と急増。2005年に配信を始めた「iTunes」などは「iPod」との提携で利用者数を急速に伸ばしており、恐らくシングルCDの売上高を来年は逆転するだけでなく、はるかに引き離すことになるであろう。

 また、「iTunes」と契約をしているレコード会社も100社に上り、携帯電話向けの配信が全体の90%に拡大している。着うたフルなどの普及で若者のCD離れが進む。

 そんな中で新人歌手が良い作曲家と良い歌に恵まれ、デビューし、ヒット曲を出すのは至難の業。よほどの個性派でない限り、音楽史上の記憶に名前を残すことは困難である。古くから活躍したビッグネームや、大なり小なり万単位のファンクラブを持つ歌手や、偶然に恵まれ、映画やテレビコマーシャルがヒットしたりする以外に、新人歌手が業界にとどまることはほほ不可能と言ってもいい。

 音楽業界の中にもさまざまな形で格差社会が構築されつつある。


2007年11月6日号

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