COLUMN:日刊ゲンダイ「数字のホンネ」

 

2008.07.28

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第69号 景気悪化で中止の憂き目  『花火大会年間7000件』

 江戸時代から日本を代表する伝統芸能ともいえる花火大会が、不況のため続々と中止になっている。

 社団法人日本煙火協会のデータによると、1年間で開催される花火大会は7000件程度。隅田川花火大会のように約2万発というものから、数百発程度の小さな規模のものまでまちまちである。

 花火大会の際には、打ち上げ場所と建物などの間に安全な距離(保安距離)を確保しなければならないため、大きな河川や海岸が選ばれる。
しかし、首都圏のある花火大会では、河川の横にマンションが建設され、保安距離が確保できなくなったことで中止となった。
 また、ある大会は自治体の予算がなくなったり、スポンサーの協賛金(寄付)が獲得できなかったなどの理由で中止に追いやられた。

 花火大会というイベントは景気に非常に左右されやすい。このところの企業業績の悪化、あるいは消費の低迷で、特に地方の中小の花火大会の減少が目立つ。今後とも協賛金集めに四苦八苦するのは間違いない。

 減少の背景には、小泉内閣時代に進められた地方自治体の合併問題もある。約3200の市町村が約1800に減少した結果、支援を取りやめた自治体が出てきているのだ。

 花火は火薬を扱うため、製造保管などの厳しい法規制のもと厳重に管理されている。業界では、170社、市場規模が150億円前後の市場である。したがって零細規模の業者が多く、大きな業者でも従業員20人程度で、脈々と花火文化を受け継いできた。今後の花火大会を考える上で、原油高による製造、運営コストの上昇は深刻だ。特に花火は金属を混ぜ合わせて固めたものであるだけに、金属価格の高騰は痛手となる。

 また、イベント開催時の警備などの安全対策費用などを考えると、この夏の風物詩の運営方法も柔軟に考えなければならない時期にきている。
例えば、埼玉県秩父市では、プライベートな花火大会を受け入れており、誕生日や結婚記念日などのイベントでの利用も出始めている。

 日本の歴史と伝統を守る上でも、何とか存続して欲しいものだ。


2008年7月29日号
 


2008.07.14

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第68号 安価な中国産も値上げ削減運動に弾みつくか 『割り箸の消費量.年間250億膳』

 日本人が使用する割り箸の量は、なんと年間250億膳。1980年代に台頭したファストフード系の飲食店、弁当屋、持ち帰り寿司、コンビニなどの影響もあり、1人当たり年間200膳近くを消費している計算になるという。

 最近では、一流料理店などでもマイ箸、あるいは箸のキープなどが始められており、割り箸の使用量を減らそうという環境保護の意識が見受けられる。しかしながら、現在のところ削減される割り箸の量はその1%程度にしかならない。それでも2億5000万膳で、ゴミの量に換算すると年間650トンの減量にあたり、「箸も積もればCO2の削減」につながるともいえる。

 さて、この割り箸の大量生産の歴史は長く、大正時代にはすでに始まっていて、太平洋戦争後半に一時期生産中止になったものの、60年ごろからの日本人の外食化傾向により、生産量は急増した。国内の割り箸製造は、安価な大衆箸主体の北海道と、高級割り箸を主に扱う奈良県が中心で、98年にはこの道県で国内生産の70%を製造している。

 ところが90年以降、海外からの安い割り箸が大量に流入してきたために、北海道の生産業者が壊滅的なダメージを受け、今では国内製造のほとんどは奈良県産。その奈良県でも生産量は30%程度に減少した。

 国内の生産量は4億5000万膳(林野庁/2005年度)と推定される一方で、海外からの輸入は245億膳と、そのほとんどを海外からの輸入に頼っている。輸入先は低価格を実現した中国が断トツで、全体の99.7%を占めている。

 その中国での生産制限などもあり、1膳0.8円程度であった割り箸も、現在では1.6円程度に跳ね上がった。たばこ同様、近未来的には、割り箸の高騰も避けられないのだろう。かといってナイフとフォークで丼物を食べるわけにはいかない日本人にとって、食文化に大きく影響しかねない状況まできている。

 近々、割り箸廃止運動やレストランや食堂で割り箸が別料金となる日が必ずやってくる。


2008年7月15日号


2008.07.07

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第67号 運転手の待遇改善を真剣に考えるべき 『タクシー強盗176件』

 横浜市で連続タクシー強盗犯の23歳の男が逮捕された。この男はひとりで9件のタクシー強盗を犯したと供述している。
先日も黒人米兵の強盗殺人事件で、残念ながら善良なタクシー運転手が殺害されたばかりだ。

 ここにきて、タクシーを対象とした強盗事件が首都圏を中心に多発。発生件数は増加の一途をたどっている。全国乗用自動車防犯協力団体連合会の調べによると、2006年の発生件数は176件で検挙率が65.2%。
タクシー事業者は運転手に防犯マニュアルを携行させる他、車内に防犯仕切り板(防犯ガラス)や緊急通報システムなどを設置して防犯対策に追われている。

 以前触れたように、日本全国のタクシー走行台数は21万9000台(04年度)、個人タクシー4万6360台(05年3月)で、小泉内閣時代の規制緩和により大幅に増加した。中にはリストラをされた若手の運転手から70歳を超える高齢者の運転手までまちまちである。

 最近は原油高の問題もあり、タクシーの走行原価が急騰している一方、乗車率の低下も著しい。
運転手の待遇は悪化の一途だ。

 タクシー業界は警察とも連携しており、犯人逮捕に一役買ったり、一般の社会人が犯罪に巻き込まれるのを未然に防ぐための警察への通報業務を担っている。それだけに、警察当局や税務当局が何らかの策を打ち出して支援していくことはできないのであろうか。
国交省はタクシー台数削減を言い出しているが、これが待遇改善につながるかは疑問だ。

 タクシードライバーの平均所得は302万円(05年・厚生労働省統計)であり、全産業の平均所得の55%。年間の労働時間は全産業平均2184時間を上回る2388時間。昨年あたりから全国各地でタクシー運賃が改定されたが、それでも厳しい労働環境。北京オリンピックを前にして、外国人も増加するだけに、観光ニッポンという側面からも、当たり前のように使っているタクシー業界をもう一度チェックする必要がある。


2008年7月8日号