2007.05.29
日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第18号 紙消費大国 『日本の紙・板紙消費量1人当たり246.8キロ/年』
日本は驚くべき紙浪費国だ。
本来IT社会が進化すると、ファクシミリやコピーによる紙の使用量が減少し、地球環境の保護に役立っているはずである。ところが、日本における紙と段ボールなどの板紙の年間消費量は、なんと一人当たり246.8キロ。世界6位だ。4人家族でいえば1000キロ消費という計算になる。雑誌1冊の平均重量を800グラムと仮定すると、年間1250冊もの雑誌を消費していることになるのだ。
駅、レストランなどに設置して無料で配布される雑誌から、週末の新聞に大量に挟み込まれる折り込みチラシ、IT機器等についてくる膨大な量の説明書。無駄が多すぎる。ちなみに国家レベルでは、年間でパルプを1000万トン以上、紙を3000万トン以上生産し、ほぼ九州と同じ面積の森林を燃やしているという説もある。
その一方で、日本の古紙(再生紙)の輸出量は急増しており、中国を中心としたアジア諸国向けの輸出量は、1999年の28万トンから2006年には3700万トンと、140倍以上の数字となっている。古紙再生技術では先進国なのである。
だったら、再生紙の国内需要を一段と増やすべきだ。名刺からトイレットペーパーにいたるまで、再生紙利用が広がっているのは事実だが、完全に徹底できているとは言いがたい。
どうしても必要な場合を除き、紙は再生紙にする。消費者もこの意識を持つ。そうすれば、貴重な森林資源の消失を防ぐことができるし、無駄な生産、消費を抑えることにもつながる。
オイルショックの時に主婦が顔色を変えて走り回ったトイレットペーパーのパニックを思い出して欲しい。あれから三十数年。現在も原油価格の高騰は避けられないし、将来予測もつかない為替の不安定な現状を考えると、この紙浪費大国の警戒感の薄さに警告を発せざるを得ない。
2007年5月29日号
2007.05.22
日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第17号 2つの格差 『平均最低賃金673円/時給』
賃金は、その国の経済力や文化度、今後の発展を見る上での大きな基準である。現在、政府では、最低賃金法の改正を進めているが、正社員・パート・アルバイト・臨時などの雇用形態や名称にかかわらず、最低賃金の問題は大きな矛盾をはらんでいるように思える。
特定の産業ごとに設定される産業別最低賃金、地域の実情を考慮し決定する地域別最低賃金の2種類の最低賃金が存在するが、2つの大きな問題を抱える。
ひとつは国内格差だ。最低賃金の全国平均は時給673円。1日8時間労働したとしても、日給約5400円。一ヵ月あたり22日間労働の平均で11万8800円、年収にして142万円にしかならない。
地域別最低賃金の最高額は東京都の719円。これに対し、最低水準の青森、岩手、秋田、沖縄の4県は610円と、109円の開きがある。東京都と沖縄の一ヵ月の賃金格差は1万9000円となり、1日1000円近い賃金格差が存在する。
2番目の問題は国際格差。世界を例にとっても、先日大統領選挙が行われたフランスがトップで8.27ユーロ(約1347円)、イギリスが5.35ポンド(約1276円)と、日本は先進国で最低水準にある。
こんな低水準では、労働意欲はそがれてしまう。もし、働く意欲を失った人々が、生活保護をうけることになったとすると、いったいどうなるのか。生活扶助を加えた生活保護費は約14万円。つまり最低賃金を1万4000円以上も生活保護費が上回ることになる。
フリーター、ニートを合わせると500万人以上になるという。ただでさえ厳しい雇用環境にある彼らが、あまりの低賃金に労働意欲を失えば、社会的損失が大きくなり、社会コストは増大する。政府だけでなく民間企業もこの最低賃金の改善に積極的に取り組むべきだ。
2007年5月22日号
2007.05.15
日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第16号 監視社会の到来 『防犯市場1兆5千億円』
日本は「美しい国」どころか醜すぎるほどの犯罪大国となってきている。この犯罪大国にあって、防犯設備機器(防犯カメラや監視システム)等の関連市場が飛躍的に拡大している。2000年度に大台の1兆円を突破した市場は、現在1兆5000億円規模ともいわれている(日本防犯設備調べ)。
その中で、一段と増加傾向を示しているのが防犯カメラだ。新宿・歌舞伎町では02年2月に50台の防犯カメラを利用したシステムの運用を開始。同地区の刑法犯罪認知件数は03年の2249件から、06年には1635件と抑制効果を上げている。最近では、子供を狙った悪質な犯罪が多発していることから、通学路に防犯カメラを設置するという例も珍しくない。
防犯システムの大半は不審者の進入防止や検知、通話機能など、直接的にではなく間接的に効果をもたらす製品で占められている。
たとえば防犯カメラは監視員が24時間見張っていない限り犯罪抑止効果は望めないが、一方で犯人の特定という役割を担っている。実際、防犯カメラに記録された犯人の姿が特定されたことによって犯人逮捕に至ったケースも多々ある。
04年3月にスペインのマドリードで起きた列車爆破テロ事件も、スペイン駅構内の監視カメラから犯人が特定された。
日本の公共機関でも導入に拍車がかかる。7月から東海道・山陽新幹線に投入される「N700系」には、安全対策強化のためすべての乗降口に防犯カメラが設置されている。
防犯カメラ設置にはプライバシーの侵害などを理由に反対する人も少なくない。しかし、いまの日本社会は、特急電車の中の暴行、レイプを誰一人注意することもできない。もはや、防犯機器に頼らざるを得ない状況になってしまったのだろうか。
凶悪犯罪の増加と、市民の無関心がもたらす先は監視社会の到来・・・・・。
考えただけでもゾッとする。
2007年5月15日号
2007.05.08
日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第15号 個人授業の落とし穴と対策 『外国語教室受講者数956万人(06年)』
イギリス人女性英語講師の痛ましい殺人事件は、いまだに解決に至っていない。この事件で一躍クローズアップされたのが外国人講師による個人レッスンだ。本物の外国語会話が見に付くからと、受講生の人気は高い。そこに落とし穴があったわけだ。
さて、経済産業省の特定サービス動態統計によると、外国語会話教室に通う受講者の数(06年)は、なんと956万人(延べ人数)。
ちなみに売上高の合計は1364億円に達する。1人当たり数万円の授業料を払っていることになる。全講師のうち、外国人は6割以上を占めている。
先日の女性講師が所属していたNOVAの場合、日本全国で約900校を持ち、講師を含む外国人の在籍者数は約7000人。講師の給料は大卒の場合で、月28万円程度。そこからNOVAが所有する講師用の寮代等々を差し引かれるので、決して高収入ではない。
NOVAの講師に限った話しではないが、収入を補うために個人レッスンに走るケースは少なくないとみられている。受講生のニーズも高い。その一方で講師と受講生という関係を超えて、男女関係に発展してもおかしくない。
グローバル化がますます進む中、英語はもちろんのこと、中国語や韓国語、ひいてはベトナム語などの習得が必要となる。外国語会話の習得を目的とした数々のビジネスモデルがこれからも展開されるであろう。
その裏側で、今回の事件のような国際問題に発展する事態も起こりうる。加害者と被害者が逆転するケースもあるだろう。
それを前提とした対策をどう講じていくのか。教室外での個人レッスンの禁止など、種々の制度を見直して、受講生および講師の保護を行うといった対策が急務なのは言うまでもない。語学学校の認可、経営チェックなど行政レベルでの改善策も必要だろう。
ただ、問題の本質は別にあるのではないか。やはり学校の語学教育の貧弱さだ。中高の英語教育で、日常会話ぐらいは見に付く教育システムの確立がもっとも必要だと思えてならない。
2007年5月8日号