COLUMN:日刊ゲンダイ「数字のホンネ」

 

2008.05.26

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第61号 スタンド経営者の悲鳴が聞こえる 『セルフ式GS窃盗事件120件首都圏』

 全世界にとって石油は当面のエネルギーの主役であり、日本の将来を左右する存在である。この4月以降、ガソリン税をめぐるドタバタ劇で、ドライバーは散々振り回された。ガソリンスタンド(GS)も、値下げ、値上げのたびに大騒動に見舞われたが、それとは別に、現場では大変なトラブルが起き始めている。

 GSの数は全国で約4万3000店。ほぼコンビニの総数に匹敵する規模である。問題は、セルフ式といわれているGSでの窃盗が増加していることだ。十数年前からこのセルフ式は数を増やし、全体の10%強という数になってきた。私もよくゴルフ場の近所のスタンドで給油しているが、安くて便利で、重宝している。

 そのセルフ式GSで、2006年9月以降、首都圏だけでもなんと120件の窃盗事件が発生している。いずれの手口も未明から早朝の時間帯に複数の男が乗用車で乗り付け、バールなどで清算機を壊す乱暴さ。警察当局は大半は同一グループによる犯行の可能性が高いと見ているようだ。

 被害金額も増大化しており、1件あたり50万円から150万円、店側にとってみると、自動清算機や給油機も壊され、大変な痛手となる。さらに犯行時間は2、3分。手際のよさが目立つ。犯行に使う車両も盗難車のため、当局は頭を痛めている。

 1バレル=135ドルを超え、一説には200ドルまで行く可能性があるといわれているガソリン。レギュラーの金額は約170円、ハイオクに至っては200円を超える。と考えると、今後ガソリンスタンドで現金を狙うだけでなく、ガソリンそのものを狙う事件が出てくる可能性もある。本来は人件費削減のために経営されているセルフ式GSのリスクは極めて高くなる。防犯カメラや巡回式のガードマンを雇っても、このネズミのような窃盗団を検挙するのは困難であろう。
となると、ライフラインの低下とは思われるが、コンビニと同様に、24時間制を見直し、深夜営業を休止する動きが出てくるのは避けられない。原油高にGS窃盗の増加、スタンド経営者の苦悩は募るばかりだ。


2008年5月27日号


2008.05.19

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第60号 乳幼児だけでなく大人も集団感染 『百日咳の子供患者急増昨年の2倍664人』

 国立感染症研究所感染症情報センターの調べでは、百日咳の患者が今年は過去10年間と比較して急増していることが判明した。
国内の小児科3000カ所からの報告によると今年に入って確認された患者数は3月時点で664人。昨年同期の331人の約2倍。大人も含めた全体の患者数も急増しているといわれている。

 百日咳という風邪の一種のように思われるが、まったく異なる。症状こそ風邪に似ているものの、春から夏にかけてが流行のシーズンで、大人の場合は厳しい咳が何週間も続くが、比較的症状が軽いので何げなく放置しがちだ。このため百日咳に気がつかないケースが珍しくない。

 そのため、大人が感染源になって家に持ち帰り、ワクチンを接種していない乳幼児に感染させてしまう場合がある。感染した乳幼児は大人と比べると症状が厳しく、肺炎のほか、手足の麻痺、目や耳の障害など、後遺症が残るケースもある。さらにこのうち0.2〜0.6%の乳幼児は死に至ることもある。

 日本では生後3カ月以降に4回のワクチン定期接種の機会があるが、ワクチンの効果は日が経つにつれて減少するため、大人になってから感染してしまうケースが近年増加しているのであろう。

 大人への異例の集団感染が、大学のキャンパスなど各地で起きている。
たとえば香川大学では昨年の5月から6月、なんと120人の学生と教職員が集団で百日咳にかかり、10日間休講になった。また7月には高知大の医学部で、咳や鼻水が出ると訴える学生が146人も。調査してみるとその4割に百日咳菌の痕跡が見つかった。

 今後、この百日咳はどうなるのであろう。北里研究所では百日咳菌が変異して、ワクチンが効きにくくなっている可能性を指摘する。しかも、昨年の集団感染では菌がほとんど採取できておらず、変異菌が出没したかどうかも判明していない。咳やくしゃみの飛沫で感染力が強い百日咳であるが、乳幼児をお持ちのあなたは十分に気をつけなければならないし、少なくとも今年も百日咳が猛威を振るうことは間違いない。


2008年5月20日号


2008.05.12

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第59号 医療が危機的状況に陥っている! 『モンスター・ペイシェント禍』

 一昔前は病院や医者というと、憧れの職業であり、現実的に所得も一般サラリーマンなどよりははるかに安定し、高収入であった。しかし、最近は毎日のようにマスメディアが取り上げているように、病院の倒産、医師の賃金低下、加えて医療ミスなどのトラブル等、わが国の医療業界は戦後末曽有の危機にさらされている。

 さらに医療現場に目を移すと、こんなトラブルも多発している。入院患者とのトラブルで、「モンスター・ペイシェント」という利己的で理不尽な患者が看護師や医師を泣かせているのである。

 全日本病院協会の調べによると、その職員が患者やその家族から暴言や暴力を受けたケースが、昨年1年間で6882件に上っている。回答を寄せた1106病院の52%が「院内暴力があった」としている。

 暴言などの「精神的暴力」が3436件で最も多く、殴るなどの「身体的暴力」は2315件、「セクハラ」は935件に及ぶ。しかし、警察に届けたという病院は約5.8%、弁護士に相談したケースは約2.1%と、院内暴力に対しては事を荒立てることなく、内々で処理する病院がほとんどだ。
中には警察のOBを配置したりガードマンを採用したりして、このモンスター・ペイシェントの対策に乗り出している病院もあると聞く。

 「院内暴力」は年々、深刻の度を増す一方である。すでに患者は、病気を抱えて弱い立場にいるという時代ではないのかもしれない。大学病院の広報室に勤める私の友人の話によると、看護師や事務局のスタッフはもっとひどい目に遭っているともいう。

 医療業界を取り巻く危機的状況は、モンスター・ペイシェントの出場だけにとどまらない。勤務する病院の医師が足りない。したがって患者が他の病院に転院し、経営不振に陥るケースが後を絶たない。帝国データバンクの調べでは、2001年から2007年の間に、210件の医療機関が倒産した。10年後には病院の数は8000から9000程度になり、現在の2割減となってしまうという。これは明らかに国家の責任、つまり厚生労働省の無計画さにあると断言できる。
医療行政を根本から見直さなければならない時期に来ている。


2008年5月13日号