DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2013.11.19

第37回 ポール・マッカートニーの声

 ポール・マッカートニーの声に関しては、何人もの評論家が分析し、賛美を送っている。
 十数年前に、福岡ドームの公演をプロデュースしたとき、いわゆる彼の話し声を聞く機会があったのだが、その声が歌声に変わると、振幅数も変わり、少し太くなることで何とも言えない優しい音質に変わる気がする。
 
 よく音楽は、国境や宗教や性別や年齢はすべてを越えて、人々を結びつけると言うのだが、正確に言うと、あらゆる人間の心の中の部屋にビザなしで入り込んでいく特種なメディアなのではないかと考える。
 ひとたび、ポール・マッカートニーが歌い始めると、その声は誰の心の中にも優しく入り込み、そこでそれぞれのドラマを作り出し、感情を揺さぶり、時として永遠に根を生やす。

 東京ドームに集まった数万人の人々を見ていると、それぞれに根付いたポールの歌が、それぞれに違う色の花になって、まるでお花畑のように見える。芸術家とは、そういう意味では心に種をまくという神様から与えられた人なのかもしれない。