DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2011.08.11

第23号 千葉さんの古時計は20年もの

 千葉さんの「きよし」に安藤勇寿先生の絵を掛けていただいた、御礼に古時計という20年物の日本酒を、頂いた。この「古時計」は、津波に襲われた気仙沼の海をぷかりぷかりと漂流していたもので、日本酒の蔵から流出した殆どの日本酒は、行方知らず・・・になったらしいが、偶然見つかった。

 あの夜、恐ろしいほどに星が美しく、その星空を、流れ星を眺めていた被災者も何人かいたと思う。砂にまみれてその僅かな隙間から夜空を見た人や、瓦礫や流木に体を預けながら、オリオンを数えた人も居たに違いない。
 「古時計」という名前の由来は聞かなかったが、何年も先まで、永遠に時を刻むという意味だろうか?唯の古酒とは、思えない。

 店の電燈に一升ビンを透かしてみると、濃いビロードの様な、赤茶けた紫の向こうに、千葉さんの顔が見えた。

今晩も、被災地の友人からの携帯が鳴っている。

 紹興酒のような甘みの後に、舌の上で日本酒の香りが、ほんの仄かに匂う。酒の弱い人も、ストレートで、飲むべきでは?そんな気持ちになった。

 「このお酒を、漬けた人は、一体どんな人なんだろう」と、思うと、しばらく、永遠に僕には飲めなくなって・・・・・・・。しまう。