DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2011.03.22

第8号 月刊「美楽」4月号

『耳そうじ』

「さくらの花びらの開く音が聞こえるよ」
と、口癖のように言いながら、母さんは耳そうじをしている。
耳の奥のほうでごそごそと、風がぶつかるような音がる。僕は手を握り締めて固まっていた。

 桜の花びらが咲く音はしなかったけれど、夏の風に揺られて落ちる花びらの音が聞こえた。