DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2010.08.21

第40号 月刊「美楽」9月号

『とうちゃんの船』

 今、目の前を通り過ぎていった風は、どんな心の風だったのか。風の中には、悲しみや喜びや笑い、時には怒りさえもあるように思う。
戦場を吹く風、麦畑に滞る風、校庭で無邪気に渦を巻く風。窓から台所に入り、居間から庭に吹き抜けていく風。

 父は、海に出掛け、風の中で仕事をし、母はいつも船の帆を見ながら、父に吹く風を束ねるのが仕事だったように思う。

 ざわざわと風の声がしたので、振り向くと、ススキの穂をまだ不透明な秋の風が揺らしていた。