DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2010.07.19

第32号 月刊「美楽」8月号

『ほおずき』

 少女は“ほおずき”を、キュウキュっと鳴らすのが得意だった。夕焼け空のような橙色の実の種を器用に取り出し、口の中で薄い皮を絡めると、なんとも軽やかな音色の、音がした。

 少女は、「ほおずき」というあだ名で、呼ばれるようになった。

 母は、毎年この時期になると、何かを思い出すように一日中、庭の“ほおずき”を、眺めている。
 脳裏に刻まれた“音”の思い出は、永遠に色のあせない情景を、作り出すのかもしれない。