DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2002.10.02

10月2日(水)香港のリッツ・カールトンの窓から建国祭の花火が上がっている。視界をぼやかす霧雨の中で、不透明なアジアの未来を象徴する様に、今にも風に流されそうな花火が揺れている。

 日本のあらゆるイベントがあまりにも巨大化し、よってコストが掛かりすぎ、チケットが高価格化している。しかもそれぞれの企画はマンネリ化し、お客様の会場に運ぶ足が急速に鈍くなってきている。あのワールドカップの疲れが市場を冷やしているのか、単純に不況が財布を直撃したのか、見せるものの魅力が無いのか、それとも自宅でのメディアが多様化したのか、いずれにしても原因が複雑に絡み合って、当分の間“マーケットの集客の糸は絡んだままで解けそうに無い”。


 デフレ時代でも確実な利益を得るイベントを探しているうちにやはり僕の穂先はアジアの都市に向かった。香港は人口600万人。決してメガ市場ではないが、日本のキャラクター・ブームが起こり、少なくとも日本産という目新しさで集客できるという自身がある。しかもデパートの屋上でよく目にする家族みんなで楽しめるような低単価のイベントを長期間にわたり提供すれば必ずヒットするという確信がある。


 今回は11月の初旬から、S社のKキャラクターで、家族を対象にしたイベントをA社と組んで実施する予定である。これが成功するとアジア各国の都市で巡業させ年間ある程度の売り上げが見込める。考えてみれば、今年の初めからソウルを初めワールドカップで養ってきた“都市の感触”が漸く実を結ぶことにもなる。


 翌日早起きをして、香港島の裏手に当たる山の手の高級マンションが乱立するエリアに登る全長2キロほどのエスカレーターに乗ってみた。すぐに汗ばんでしまったシャツと、鳥を蒸すにおいと、時たま風に乗って運ばれてくるマンゴー・ジュースの香りが久しぶりの香港気分を高めてくれる。


 今にも壊れそうな古いビルと古着の洗濯物が干してある木造アパートの間を縫って作られた金持ちエリア行きのエスカレーター、その横には隣接して幅の不規則な石の階段が続き、好き勝手に自己主張をする看板が眼下に群れる商店街の迷路を一層複雑にしている。


「これだけの店がよくみんな食べていけるなぁ」この町に来るといつも感心する。

 華僑に学ばなければならないのは、人々の図太さと、経済の弾力性、奥行きの深さ、さらになにより無駄なプライドを持たないことでの中国商人のエネルギーの濃さであろう。


 以前この町で作った「香港フォギーナイト(香港霧物語)」の中に登場するミステリーな恋愛感覚とは程遠く、アジアに広がる不気味な不況の足音が僕のヒストリーな経済感覚を刺激している。