COLUMN:日刊ゲンダイ「数字のホンネ」

 

2007.01.16

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第1号 親指文化の悲劇 『携帯メール1日120通』

 ハリウッドスターや人気女優らが登場し、ファッション性、機能性をアピールする携帯電話のCM、広告があふれかえっている。若者達はこぞって新機種に飛びつく。いったい、どんな使い方をしているのか。

 興味深いデータを紹介しよう。女子高生、女子大生の多くが、メール料金の格安プランを使って、5,6人の友達相手に1日120通ものメールを発信しているというのだ(着メロ配信会社調べ)。
朝、昼はもちろんのこと、授業中もあたり前。読者の皆さんが接待をしたり、残業にいそしんでいる夜の10時から12時にかけてがピークだ。
全体の8割近くが、この時間帯にコミュニケーションをとっているのだ。

 ウチは息子だから大丈夫。いやいや、そんなことはない。メールの頻度は1日10通程度と落ちるが、通話回数は女子大生と同程度だという。

 友人の杉並区立和田中学校、藤原和博校長にこの話をしたら、
「今の現象は“親指文化の悲劇”ですよ」
と指摘していた。現実社会と向き合うことをせずに親指でひたすらキーを叩き、携帯電話を通じて仲のいい友達とのみコミュニケーションを築く。
電車の中で、一心不乱にキーを叩いている姿は不気味ですらある。

 カノジョたちにとっては、なくてはならないツールなのだろうが、イジメや受験勉強の悩みの解決ツールにはならない。
逆に陰湿なメールでのイジメを深刻化させてしまいかねない。

 携帯依存から離れ、目の前の両親や社会に向き合うようになれば、イジメをはじめとする諸問題がもっと目に見えやすい形で現れてくるはずだ。
みなさんの娘や息子の親指の裏側に隠れたその文化が、実は若者のコミュニケーションを完全に社会から隠蔽する道具になっているのだ。

 番号ポータビリティー制実施で、どこが勝った、負けたなんて取るに足らない話。利便性と娯楽性を追及した携帯文化の裏側に、若者をむしばむ深刻な問題が潜んでいることを忘れてはならない。


2007年1月16日号